「ドコモの絵文字が見づらい問題」に思うこと

前提条件

本文書はITmedia Mobileに2023年10月29日 10:00AM付で公開されたはやぽん著の「「ドコモの絵文字が見づらい問題」を考える なぜ、今のスマホにそぐわないのか」という記事 (以下、該記事と称する) に対する反応です。

本文書の筆者であるhadsnはドコモ/au共通絵文字 (iモード絵文字) の継続利用に対して否定的な立場である一方、条件をそれなりに満たせば (おもしろ半分に) 利用を肯定する立場です。

前置き

勝手な該記事のまとめ

該記事では、携帯電話コミュニケーションにおける絵文字の導入とUnicodeの符号化文字集合への追加、その後の絵文字を取り巻く情勢の変化とNTTドコモ以外の事業者がどのように対応したかについて触れ、最後にNTTドコモの対応について批判的にまとめている。

絵文字の元祖はドコモなのか?

該記事の本文中にはこのような記述がある。

絵文字を携帯電話に採用したのは、NTTドコモが最初だ。この後にDDI(現au)、J-フォン(現ソフトバンク)が採用する形で続く

ケータイ (PHS等を含んだ広義の意味でも、狭義となる純粋に制度上の携帯電話でも) において絵文字が初めに使われだしたのはいつだろうか? 利用者の求めに応じて事業者が認定していないコンテンツサービスを自由に利用可能になったのは1999年2月開始のiモードであることは疑いようのない事実である。

その一方で、1997年12月には "デジタルホン" (J-PHONEブランド利用開始後ではある) から携帯電話間でのメッセージングサービスである "スカイウォーカー" (楽天モバイルが2021年3月に出願したものではない) に対応したDP-212SWが発売されている。この機種では90文字の絵文字をサポートしており、J-Sky絵文字へ発展的解消を迎えたことが容易に想像できる (符号化文字集合を確認したいので、だれか説明書のコピーをください)。

DP-212SWではスカイウォーカー向けに絵文字をサポートしていたことから他社のショートメールサービスに目を向けてみると、携帯電話事業者のNTTドコモは1997年6月からショートメールサービスを開始しており、ショートメールセンターからドコモの携帯電話にSMSを送る機能の解説ページでは、カナ文字の狭間にたった2文字の絵文字、 '☎' と '♡' とが利用可能なことが謳われている (実はひっそり漢字も送信可能なのだが....)。

ドコモの話に戻ったのでiモードのほうに再び目を向けてみると、現在ではドワンゴの専務取締役を務めておりVOICEVOXにぶち込まれてしまった、iモード絵文字生みの親である栗田穣崇への複数のインタビュー記事において、ポケベルのハートの絵文字の経験から絵文字を実装しようとしたことが触れられている。記事によって当時の彼女とのやり取りを理由にしていたり、ハートの有無で他の事業者にユーザを奪われたなどと二転三転しているが、ポケベルのハートの絵文字の経験から絵文字を実装しようとしたという一点では一致しているので、広義の携帯電話どころかモバイルテキストコミュニケーションデバイスというくくりに広げてしまうと、ポケベルが絵文字の祖ということでいいのだろう。具体的にどこのポケベルが絵文字を用意しだしたかの検証も必要かもしれないが、国会図書館の "個人向けデジタル化資料送信サービス" の申し込みをしていない個人がやるコタツ記事にはこれが限界である。

iPhone OSにおける絵文字の対応

該記事でも指摘の通り、ケータイの絵文字は同じ物事をモチーフにした絵文字であっても、事業者が違えば絵文字の符号が異なるという地獄のような状況であった。にもかかわらず、通信の秘密の問題なのか、絵文字をユーザ囲い込みの手段にしていたのかは知らないが、Eメールを経由した文書交換においてはよそのサービスを頼らせたり、自社の有料サービスに頼らせて変換させていたのである。

2006年9月には携帯電話事業者3社間での絵文字互換サービスが開始されるが、符号化文字集合が一致していない (例えばau以外の絵文字にモヤイ像は存在していない) ことから、どうしても '〓' や絵文字ではない鍵カッコ囲みの標準文字にならざるを得ない部分も存在したのである。そして、KDDIPHS事業者なのに絵文字はドコモ互換であったウィルコムは仲間外れである (2008年1月に対応)。

インターネットとは一応オープンな世界であり、コンテンツの制作にはWindowsMac OSといったキーボードとある程度の画面を具備したコンピュータ向けのOSを用いてコンテンツを制作することとなる。したがってこれらコンピュータ向けOS下でも扱いやすいようにか、数値参照という表現方法も可能である。その実この数値参照というのは十進数にしたUnicodeの符号位置を示しており、JISコードの未定義領域を勝手に占用するがごとく使えるPUA (私用領域) にも絵文字が一応割り当てられていたのである。

iPhone OS 2.2における絵文字の対応は非常に簡単(?)なもので、搭載しているフォントとしてはUnicode 5系の符号化文字集合をサポートしている一方で、J-Sky絵文字改めソフトバンク絵文字をUnicodeでPUAに符号化したものが表示できるようになっているのである。

(個人的にはUnicodeに絵文字をぶち込めたのはGMailでの対応発端と感じているが、まあそんなことはどうでもいい)

デザインが揃わない文字は変換なのか? ~例示字形とその実装の狭間で~

該記事では

ドコモのAndroidスマートフォンでは、ドコモ/au共通絵文字に極力変換して表示する機能が標準で備わっており、この機能が消費者を困惑させている要因となっている。

とあるが、これに対しては真っ向から違う、と言わせていただきたい。この言い方を正であると扱ってしまうと、いわゆる中華フォントしか搭載してない端末で日本語を表示したときに、"日本語を中華フォントに変換して表示する機能が備わっている" と表現せざるを得なくなってしまう。

正しくは "ドコモ/au共通絵文字が絵文字フォントとして指定されているが、今となっては収録されている文字が足りなすぎるので別の絵文字フォントが代替表示されている" という状態なのである。

状況としては、日本語の丸ゴシックを指定して機械翻訳の中国語文を入力したら、簡体字明朝体で表示されてしまったのと何一つ変わりがないことなのだ。ただ違うとしたら、収録されている文字が足りな過ぎて代替表示される文字が多すぎるくらいだろうか。

該記事では

ドコモのAndroidスマートフォンで表示されている絵文字が、送った先で、想定したものとは別の絵文字として表示される可能性も十分にあり得るのだ。

とも言われているが、符号化された絵文字自体は同じである。Android のNoto Color EmojiとiOSの絵文字の字形が (とても似ているが) 違うように、ドコモ/au共通絵文字とほかの絵文字フォントとで字形が違うだけなのである。その違いが78JISをもとにしたフォントと、83JISをもとにしたフォントとの違いのように、まるでそびえたつクソのような違いなだけであって。

本題

グローバル標準の絵文字って何?

該記事ではNTTドコモの広報部に対して

絵文字の特定環境での視認性の悪さについてどう感じているのか。独自のものではなく、グローバル標準の絵文字に統一しないのか

と問い合わせている。それに対して

グローバル標準の絵文字に統一するといった予定があるのか? という質問に対しても「既存の絵文字」を利用している方もいるので、ユーザーの声を踏まえて検討を進めるとしている。

という回答を得ている (視認性の悪さにも回答を得ているが引用しない)。その回答に対する評価として

ドコモでも販売しているiPhoneやPixelについてはこの制約はなく、絵文字問題はAndroidスマートフォンのみが該当する。グローバル標準のものをあえて変換してまで旧絵文字を表示しているため、開発や実装にも相応のコストがかかっていると考えられる。

問題はドコモの絵文字を半ば強制されることなので、表示される絵文字はユーザーにも選ぶ余地を与えてほしい。現在の一般的な絵文字はISOで標準化されたものであり、従来のものを変換して表示するという選択を強制することは、消費者の理にかなっていないと思う。

としているが、iPhoneGoogle PixelはhTc Zのようなメーカーブランド端末であり、所詮はドコモ取扱品である。なので、それらの機種はAppleが作成した絵文字フォントや、Googleが作成した絵文字フォントであるNoto Color Emojiの利用が可能なのであろう。一方でドコモブランド端末である、その他のAndroid端末についてはドコモ/au共通絵文字を使用するように発注をかけているがゆえに、利用者は (多義的な) 視認性の悪さに苦しめられているのである。

さて、この部分で言われている "グローバル標準の絵文字" とは何なのだろうか? 文字コード自体はISO/IEC 10646, つまりはUnicodeで標準化されているのは、さんざん上で触れたように周知の事実である。Unicode 6.0で絵文字が追加された際に当然例示字形も公開されているが、iモード絵文字ともNoto Color Emojiとも似つかない物である。

EmojipediaでもEmojiGuideでも好きなものを見てもらえればわかるが、カネのあるソフトウェアベンダやサービス事業者はそれぞれ絵文字のフォントを作っているのである。それぞれ似通ってはいるもののそれら独自のフォントを持っているし、GoogleAndroid向けの絵文字フォントに至ってはAndroid 4.3の頃の白黒ドロイドくんやAndroid 4.4から7くらいまで使われた黄色まんじゅうなどが存在している。

そんな状況下で "グローバル標準の絵文字" と言ったところで何を使わせたいんだ?と疑問の苦言を呈さざるを得ないのである。例示字形をそのまま実装すればいいのか? Google Pixel同様にNoto Color Emojiを使えばいいのか? それともAppleなど他ベンダの絵文字フォントを使えと言っているのか? はたまたドコモ自身がほかの事業者が提供する絵文字フォントと似通ったデザインのフォントを新規に製作して採用すればいいのか? 何を望んでいるのかさっぱり判らない (いやまあそこまで深く考えてなくて、ドコモ/au共通絵文字をやめてNoto Color Emojiみたいなフォントにしてくれくらいにしか考えてないんでしょうけど)。

最後に

色々と非営利の暴力でツッコミをさせてもらいましたけど、この文書を書くのにだいたい4時間くらいかかっています。その4時間もこれまでのネットサーフィンの積み重ねがあっての4時間ですので、営利を目的とした商業ライターでは当然かけていられない時間であるとは思います。

Gadget and Radioで常日頃からやってるように無駄に小難しく批判的に書いてしまっていますが、ドコモ絵文字はクソ!という観点では一致しておりまして、それを商業メディアの記事にしていただいたのは大変うれしく感じております。

あと疑問に思うのは、絵文字の符号化文字集合を2014年に携帯電話事業者5社で一致させたのに、なんでKDDI以外はドコモと字形を一致させなかったんですかね?